声優がサラリーマンと同額の手取りを得ようとした場合、稼ぎを倍にしなくてはならない。
言い方はどうあれ、これに類似する話を耳にする機会がございます。
さて、この話題がポジティブな場面で登場するわけもなく、大抵事務所に支払わなくてはいけない手数料のおかげで、取り分が低くなるという「愚痴」として耳に入るわけです。
まぁ私も雇われの身ですので、思わず口にしてしまう人達の気持ちも理解できます。誰だって天引きされるお金を快く思うはずはありませんものね。
が、稀にこの話題を鵜呑みにし「声優事務所に手数料を搾取されている!」と思い込む者もいらっしゃるのだとか・・・。
声優事務所で働く事務員として首を傾げるしかできないわけですが、私も自社のことしか理解していない立場です。
私の知らない世界が蔓延る可能性も、否定出来ません・・・。
とは申せ、事実は事実としてお伝えすることはできます。声優が事務所に支払う手数料のシステムについて、ご興味のある方はご覧下さい。
声優事務所が徴収する手数料について
納税の義務
国民の三大義務の1つであり、声優もお仕事の報酬に対し源泉徴収が発生するのは当然の事と認識してください。
細かいことは割愛しますが、声優の出演報酬に対し約10%が税金として徴収され、それらに纏わる面倒な処理は事務所側で実施致します。
そう、声優に代わって何かしらの処理をしてくれるのがスタッフであり、それらも含めた費用を手数料として事務所側が徴収しているわけですね。
もっとも事務手数料に関してはプロダクション各社で差異がある話です。ただまぁ、よく聞く比率だけをお伝えすれば、2割から4割と言ったところ主流でしょうか。
このことより、源泉徴収と手数料の差分が声優への収入となります。
(※尚、それ以外の付加要素についてはプロダクション各社で違いがあるものとご理解ください)
手数料は何に利用されるのか
徴収された手数料の使い道を気にされる方がいらっしゃる様ですが、端的に申し上げれば、
- 設備費用
- 物品費用
- 人材費用
これらに割り当てられます。
非常に当たり前の話ですが、場所も物もタダではありません。まして私の様なスタッフ側もボランティアでは有り得ません。労働に対する対価は、当然請求させていただきます。
尚、これらに掛かる費用を「無駄な経費」と捉え「搾取」と認識されるとなると、個人事務所の設立を目指すべきなのかもしれませんね。
個人事務所を設立するのは簡単ですよ
偽らざる事実を申し上げるとするならば、個人事務所を立ち上げるのは簡単です。それこそネット検索でもすれば、情報はゴロゴロ転がっております。折角ですので、仮想個人事業所をイメージしてみましょうか。
あなたは年間1.000万円を稼ぐ声優さんです。
さて国税である源泉徴収は、絶対に支払わなければなりません。その費用にあたる「約100万」は収益から減算しましょう。
その上でマネージャとデスクを雇い、事務所を構えてみましょう。
もしあなたがマネージャやデスクをするとしたら、いくらぐらい欲しいかで考えてみましょうね。
その残ったお金があなたの収入になりますが、おそらく5%から15%程度しか残らなかったのではないでしょうか?
経営者になる覚悟はありますか?
人件費を抑えることを目的にするならば、アルバイトを雇うという考え方もあるでしょう。
もっとも、時給1.000円でアルバイトで賄ったところで、年間約200万円程度の費用が人数分必要です。
事務所の賃料も年間最低100万円程度は想定しておくべきでしょう。
(※あくまで個人事業所としての想定計上です)
さて、現段階で売上げの60%程度が費用として捻出されており、残金が事業主としての収入になるわけですが、いささか心許ないと考える人もいらっしゃるでしょう。
更なるコスト削減を図るならば、マネージャとデスクを兼任させてみてはいかがでしょうか。そうすれば事業収入は60%程度となりますからね。
とは言え、それをすることで懸念されるのはリスクの増大です。
営業中に電話応対をすることは難しく、またデスクワークで営業の時間が取れません。スタッフの諸事情により欠勤が発生した際のフォローも難しいです。
まして、マネージャとデスクの兼任業務が時給1.000程度の対価に釣り合うでしょうか?
余程事業主であるあなたに魅力でもない限り、割の良いアルバイトに転職される可能性は高いでしょう。
さらに何かしらかのトラブルが発生した場合、その責任は事業主であるあなたが負うべきものとなり、その対応手腕が問われることは言うまでもありません。
尚、上記で計上した費用はすべて「どんぶり勘定」であり、実際に勘案すべき事項やリスクはまだまだあると考えておくべきでしょう。
敢えて勘定科目を記すことは致しませんが、雑費だってバカにできませんよ。
「それでも自分なら何とかできる」と考え、すべてをひとりで運用すれば事業収益の効率化は図れるかもしれませんが、机上の空論にならないことを願うばかりです・・・。
【参考記事はこちら】
声優になりたい!?フリーランス声優という選択肢を甘く見るな!
ちなみに、もしあなたが声優事務所に所属していた場合、源泉徴収やその手数料こそ引かれますが、差分は当然あなたの収入になります。勿論、マネジメントや面倒な事務処理など事務所にお任せで構いません。
フリーランスになった声優が、結果的にどこかしらの事務所と再契約する理由ってこんな感じですよ。
もっとも、これもまた「再度契約ができればの話」という想定論でしかございませんけどね。
声優とサラリーマンを比較する愚行
そもそもの話、サラリーマンの収入と声優の報酬を比較していること事態、論点がずれていると理解すべきでしょう。
仮に、営業職の売上げが1億円だったとします。声優で考えれば出演報酬が1億円に該当するわけです。
とは言え、彼らの給料がその7割となる7.000万円になる・・・わけはありません。せいぜい10%前後が一般的でしょう。
まして、売上げが1.000万円クラスで700万円が給料になるわけがないことぐらい、容易に想像できますよね。
このことより、サラリーマンと比べて倍以上稼がなくてはならないという条件そのものがオカシイってお分かりいただけますか?
様々な分野よりいろいろな意見があってしかるべきですが、決して声優は搾取される立場なんてことなど無い、と考えるのは私が元一般企業の会社員だったからなのかもしれませんね。
だって、一般企業に勤めれば、嫌でもコスト意識という考え方が身に付きますもの。
(※まぁ、企業によりけりの話でしょうから明言は出来ませんけどね)
意見を耳にすることは大事だけど
何かの席で先輩などから「ご意見」を頂戴することもあるでしょう。その中には、愚痴や冗談、妄言の類もあるはずです。
それらを真しやかに話されることにより、真実と誤認してしまう者が後を絶ちませんが、意見は所詮意見でしかありません。
それが事実か否かを確認する作業は、自分の身を守るためにも大事にしてください。
失敗から学ぶことも大事なのは事実ですが、人の意見に左右され、結果後悔を口にするのはあまりに悲しい事なのですもの・・・。
【参考記事はこちら】
ウザイ先輩の対処法!?若手声優のリアルな声を聞いてみた